インプラント治療は多くのメリットがありますが、一部で事故や不具合も報告されています。ここではインプラント治療で起こり得るトラブルと、対処法や未然防止に繋がるポイントなどを解説します。
あごの内部の様子
上顎洞のトラブル
上あごの奥歯の上部には上顎洞(じょうがくどう)と呼ばれる骨の空洞があります。上顎洞は左右対称な形をしており粘膜で覆われていますが、稀に上あごの奥歯にインプラントを埋め入れる際に上顎洞粘膜が傷つき細菌に感染する歯性上顎洞炎やインプラントが上顎洞粘膜に入り込んでしまう上顎洞インプラント迷入が報告されています。
症状
頭痛、鼻づまり、鼻から膿がでる、頬の圧迫感がある、など
歯性上顎洞炎の対処法
抗生物質や消炎剤で感染を抑えます。症状によっては膿を出す外科的処置や、口腔外科または耳鼻咽喉科で専門的な治療を受けることになります。上顎洞インプラント迷入の対処法:インプラントを摘出するための手術をおこないます。
下あごの神経損傷
下あごには下歯槽神経(かしそうしんけい)と呼ばれる歯の感覚や下唇の感覚を担当する大切な神経が通っています。インプラントの埋め入れ手術では下歯槽神経を傷つけないよう細心の注意を払いますが、万が一、下歯槽神経がダメージを受けると下唇や下あごがしびれたり麻痺(まひ)してしまい、思うように動かすことができなくなります。
症状
術後にしびれや麻痺を感じ、時間の経過とともに強くなる
対処法
症状を感じたら早急に担当医に相談してください。CTやレントゲンで神経の状態を確認し、専門的な治療が必要と判断した場合は専門の医療機関を紹介します。傷ついた神経は迅速に修復手術を受けると80〜90%は改善できるとがわかっており、半年以内に修復手術を受ける必要があります。
トラブルを未然に防止するには、術前に歯科用CTによる検査が有効です。事前に上顎洞や神経の位置を把握しインプラントの埋め入れポジションをシミュレーションすることで安全性が高まるので、歯科医院を選ぶ際にCT検査を導入しているか確認することをお勧めします。
インプラントがぐらぐらすると感じたら早目に歯科医院へ!
インプラントの脱落
インプラントを埋め入れてから数週間のうちにインプラントが抜け落ちる、骨とインプラントが結合しないといったトラブルが発生することがあります。
感染によるもの
オペ室の衛生管理が行き届いていない場合や手術中に患部に唾液が触れたりすると感染を引き起こし、インプラントが抜け落ちる原因となります。また、術前の歯周病の処置が不十分だと歯周病菌に侵され、同様のトラブルが起こることがあります。
対処法
インプラント治療を受ける前に、オペ室をはじめ院内が清潔に維持されているか確認しましょう。また歯周病にかかっている場合は必ず事前に歯周病治療を受けましょう。
骨の厚み・高さが不足している場合
インプラントを埋め入れる骨に厚みや高さが不足していると、埋入後にインプラントと骨が結合せずに抜け落ちてしまうことがあります。
対処法
骨を補強する処置をおこなう、もしくはインプラントの埋め入れ位置を変更し、再度インプラントを埋め入れることになります。
術前にCT検査で骨の状態を正確に把握し、必要に応じて骨を補強する処置をおこなうなど緻密な治療計画を立てることでリスクは軽減されます。CT検査を導入し、しっかりとした治療計画を示してくれる歯科医院を選ぶことが大切です。
骨のオーバーヒート(やけど)によるもの
インプラントをあごの骨に埋め入れる際には専用のドリルを使用しますが、ドリルの使用方法が不適切だったり過度な力が加わってしまうと、摩擦による熱が発生し骨がオーバーヒート状態になります。その結果、術後の痛みが続いたり、インプラントが脱落しやすくなることがあります。 このようなトラブルは歯科医師のインプラント治療経験と治療技術の問題と言えます。歯科医師を選ぶ際に 治療経験・治療技術をよく確認しましょう。
左:健康な状態 右:歯周病菌に感染した状態
歯周病菌によるトラブル
お口の中に歯垢や歯石が残っていると、歯周病菌の温床となってしまいます。インプラント周囲の歯ぐきが歯周病菌に感染すると腫れる・出血するなどの炎症が起こり、あごの骨にまで炎症が広がるとインプラントを支えられなくなり、グラグラしはじめ最終的には抜け落ちてしまうことがあります。
症状
歯ぐきが腫れる、歯みがき中に出血するなど
対処法
早目に歯科医院を受診しましょう。インプラント周辺の歯ぐきの炎症をインプラント周囲粘膜炎と呼びますが、この段階では専用器具でのクリーニングや消毒薬を使った洗浄を行います。
更に進行し、インプラントを支えている骨が溶けはじめるとインプラント周囲炎と呼ばれます。 歯ぐきを切開してインプラント表面の洗浄や、重篤な場合はインプラントを撤去し骨を補強する治療や歯ぐきを増やす治療が必要になることもあります。 インプラント周囲粘膜炎やインプラント周囲炎の予防には、歯科医院で受ける定期メインテナンスと日常のブラッシングが欠かせません。定期メインテナンスは1年に2~3回、受診しましょう。歯周病のリスクが高い場合は受診頻度が高くなりますので、担当医の指示に従ってください。
衝撃を緩和する「歯根膜」がインプラントにはありません
人工の歯やインプラント体の破折
インプラント治療を受けた後に、人工の歯が割れる、インプラント体が折れる、といったトラブルが起きることがあります。
噛み合わせによるトラブル
噛み合わせに歪みが生じると一部の歯に過剰な負担がかかってしまいます。 天然の歯には歯とあごの骨の間にクッションのような働きをする「歯根膜」があり、衝撃を緩和することが出来ますが、歯根膜は人工的に作ることができないため、インプラントには歯根膜が存在しません。そのため小さな衝撃でも人工の歯とインプラントには大きな力が加わってしまうのです。
対処法
「噛み合わせに違和感がある」「うまく噛めない」などの自覚症状がある場合は早目に歯科医院を受診し、軽度のうちに調整しましょう。また、定期メインテナンスでは噛み合わせのチェックも行いますので、きちんと定期メインテナンスを受診し正しい噛み合わせを維持することがトラブル防止につながります。
もしも!
外的要因によるトラブル
日常生活の中で思いがけないトラブルに見舞われ、人工の歯やインプラントにダメージを受けることがあります。
- 例:固いものを噛んだ時に人工の歯の一部が割れてしまった
- 例:転倒した時にあごを強く打ち、インプラントがグラグラしているなど
対処法
このようなトラブルに遭遇したら、早目に歯科医院を受診しましょう。レントゲンもしくはCT検査で状況を正確に把握し、最適な治療方法が決定されます。人工の歯だけのダメージなら人工の歯を作り直すことになりますが、インプラント体にまでダメージが及ぶとインプラントを撤去し、再びインプラントを埋め入れる処置が必要になる場合もあります。
人工の歯は見た目も大切です
人工の歯は見た目も大切です
前歯のインプラント治療では稀に「想像していた仕上がりと違う」「表情や見た目の印象が気になる」などの不満を抱える患者さまがいらっしゃいます。
対処法
前歯のインプラントを検討されている方は、治療前のカウンセリングで最終的な仕上がりについても十分に歯科医師と話し合いましょう。失った歯の周辺の歯ぐきが痩せているケースでは、周りの歯よりも長く大きな人工の歯がセットされる場合がありますが、インプラントを埋め入れる前に骨や歯ぐきの移植を行うことで回避できる可能性があります。 また仮歯の期間に気になることが無いかよくチェックし、気になる点があれば速やかに歯科医師に伝え、解決方法を充分に話し合いましょう。
トラブルによる再治療(リカバリー)は、通常のインプラント治療よりも難しくなることがあります。まずは担当医に相談することが何よりも大切ですが、対応が出来ないと説明された場合や患者さまが納得できない場合は、より専門的な歯科医院や大学病院などで相談することも選択肢の一つです。